今年も早いものでもう師走ですね。先月もたくさんの手術をさせて頂きました。
そのなかで、稀な病気がたて続けに2人ありました。病名は胸椎椎間板ヘルニアです。通常、椎間板ヘルニアは腰椎が多く、ぐっと頻度が下がって頸椎が続くのですが、胸椎は比較的稀です。その理由は、胸椎は肋骨に囲まれており、あまり動きが少なく安定しており、椎間板への負荷が少ないことが関与しています。私も今までに胸椎椎間板ヘルニアは十数例ぐらいしか経験していません。
手術は、以前は、胸椎の側方から侵入してヘルニアを取り除く方法を行っていましたが、最近では顕微鏡を用いて後方からヘルニアを取り除く方法を行っています。この方法は体への負担はかなり少ない反面、脊髄損傷の可能性があるため、かなり手術に注意が必要です。
先月の2人も顕微鏡を用いて後方から脊髄を避けてヘルニアを取り除く方法で手術を行いました。
2人とも、術前は歩行困難となっていましたが、術後は、歩行状態も改善し、杖なしで歩ける程度にまで回復しております。
先週の脊椎手術は金曜日が休日であったために水曜日の午後に2件の手術のみでした。1件は腰椎変性すべり症に対する後方進入椎体間固定術(PLIF)、もう一件は腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡視下ヘルニア摘出術でした。
腰椎椎間板ヘルニアの患者さんは下肢に放散する激痛のため、ほとんど動くこともできず、当院に受診した時には、診察室の前の廊下を這って移動しておられました。あまりの激痛であったことから、通常の手術予約なら、かなり先の予定になってしまうため、準緊急扱いとして、早期に手術を施行することとしました。手術は40分程度で完璧に終了しました。術直後から、激痛はなくなり、久しぶりに仰向けに寝ることができるようになったとのことで、非常に喜んでおられました。
椎間板ヘルニアは時として激痛のため、全く動くことができずに、トイレにさえも行けず、おむつ内で用を済ませざるを得ないこともあります。このようなときには早期の手術にて痛みを取ってあげることが脊椎外科医の使命と思っております。
腰椎椎間板ヘルニアの症例は、かなり以前から椎間板ヘルニアを患っており、そのためヘルニア塊の辺縁が一部骨化していました。このような場合にはかなりヘルニア摘出に難渋しました。正確に言うと、ヘルニアを摘出するだけなら簡単ですが、骨化を削り取るという手術操作が神経に対してダメージを与える可能性があります。神経を直視下にとらえながら、その脇ぎりぎりのところを特殊なドリルで骨化を削り取ることが必要です。
今回の症例も、ほぼ完ぺきに削り取ることができました。
そのなかで先週の腰椎椎間板ヘルニアの患者さんの手術は大変でした。術前の画像診断から、椎間板ヘルニアの一部が骨化していることが判明していました。このような患者さんはたまにおられます。椎間板ヘルニアを長期間患っている患者さんでは、通常は軟骨成分のみの柔らかいヘルニア塊が、その一部が骨に変化し硬くなっていることがあります。また、青少年の時に椎間板ヘルニアに患っていた患者さんやスポーツ障害で腰を痛めた既往のある患者さんでも椎間板ヘルニアもしくは椎間板の辺縁の一部が骨化していることがあります。
この患者さんも若いときから野球をしていたこと、当時から腰痛があったことから、スポーツ障害による腰椎辺縁の障害の遺残性骨化と考えられました。その旨を説明して、手術を行いました。手術を開始して顕微鏡で確認すると椎間板ヘルニア表面の骨化は想像通り認めましたが、それに加えて神経の走行が通常とは全く異なる走行をしていました。このようなことも稀ですがあります。通常は顕微鏡で覗いた椎間板周囲には一本しか神経が存在しませんが、奇形のため2本の神経が存在することがあります。この場合には、あるはずもないところに神経が存在していることから、その神経を神経と思わずに切断してしまったということになりかねません。私は脊椎の手術では全例に顕微鏡、もしくは拡大鏡を用いているため、これらの神経奇形の患者さんに対しても、安全に手術を完遂することができます。この患者さんでは2本の神経に注意しながら、骨化を削除し、またヘルニア塊を取り除きました。術後下肢痛が改善して、喜んでおられました。
昨週の脊椎手術は、腰椎椎間板ヘルニアの2例のみでした。内、1例の患者さんは、手術により完全にヘルニア塊を摘出し、神経の圧迫も完全になくなったことを確認して手術を終了したにもかかわらず、術翌日にも依然、術前の下肢痛が残存していました。
手術の翌朝に回診に参りますと、患者さんは、手術が終わったにもかかわらず術前の神経痛が残存していることに、非常に不安な面持ちで、「昨晩は神経痛がまだ残っていて眠れませんでした」、とおっしゃっていました。
しかし、稀にこういうことはあります。神経の腫れが強かった場合には、ヘルニア塊を完全に摘出しても、その神経の腫れが引くまで術後1週間程度は下肢痛が残存することがあります。そのことを十分に説明して、数日で次第に下肢痛が良くなりますよ、とアドバイスしたところ、安心され表情も穏やかになりました。実際、術後数日で下肢痛は軽減してきているようです。
先週は腰椎椎間板ヘルニア3件、腰椎変性すべり症に対して後方進入椎体間固定術(PLIF)1件、腰部脊柱管狭窄症に対して顕微鏡視下椎弓部分切除術1件の合計5件行いました。