2019-07-30 手術日記

腰椎椎間板ヘルニア (神経奇形の合併患者)

 久々の手術日記です。

 

 2週間前の第5腰椎/第1仙椎から発生した巨大腰椎椎間板ヘルニアの患者さんでした。通常の椎間板ヘルニアの症状は、左右どちらかの下肢が痛いのですが、この患者さんは巨大すぎて、両下肢とおしりの真ん中あたりの激痛を訴えていました。

 

 椎間板ヘルニアは、かなり巨大なうえに、神経の束(硬膜)の真後ろに存在していました。これも通常の椎間板ヘルニアは左右どちらかに大きく突出しているのですが、この患者さんは、神経の真後ろから、神経の突き刺さるように飛び出していました。

 

 神経の束(硬膜)の真後ろに椎間板ヘルニアがある場合は、神経をかなり左右に避け、神経を傷つけないように細心の注意を払いながらヘルニア塊を摘出する必要があります。また そのようなヘルニア塊は、多くは軟骨終板という硬い組織と一緒になっていることが多く、神経の背面とも強く癒着していたりして、摘出に非常に難渋することが多いです。またさらに、この患者さんは過去に反対側の同部位の椎間板ヘルニアの手術の既往もあり、神経の癒着も予想されました。

 

 当然、術前に、そのような点も十分認識して、細心の注意を払いながら顕微鏡手術に臨みました。

 

 そして実際、手術を行うと、前述のいくつかの技術的なハードルの上に、なんと、神経の奇形(conjoined nerve)という、極めて稀な第5腰神経と第1仙椎神経の奇形を認めました。これは細心の注意を払っていない場合には、第5腰神経を切断してしまう可能性がありました。

 

 神経の真裏側にある椎間板ヘルニアをとるためには神経をかなり避ける必要があるのですが、神経の緊張があまりに顕著で、神経を避けて、ヘルニアを摘出する空間を確保することが、もはや困難かと思われるような状況に追い込まれました。

 

 しかし、ここは冷静になり、今までの経験を生かして、少しずつ問題点を解決しながら、なんとかヘルニア塊を完全に摘出できました。

 

 椎間板ヘルニアの手術は、脊椎外科医にとって基本の手術手技と思われていますが、やはり細心の注意を払わないと、思わぬ事態に遭遇することがあることを、改めて痛感させられた患者さんでした。